ある犬の話

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目が合ってからの少し後、俺は此処に来て初めて鳴いた。   もう、狂ったように鳴いた。 「ダンナ俺だよ!悪かった!勝手ばかりしてすまなかった!」   保健所のやつに抱えられ、俺はダンナに渡されたんだ。短い尻尾がビョコビョコ揺れた。助かったんだ。   ダンナは俺を抱いて泣いた。声を押し殺して俺の首筋に顔を埋めて泣いていたよ。   帰りの車でも、俺は申し訳なくて助手席でくるまって黙ってたんだ。けどダンナは、終始左手で、真っ黒な爪の間の指で、俺を撫でて続けてくれ、死ぬほど幸せだったな。今なら死んでもいい、なんて実際思ったもんさ。    まぁ、話しはそんな感じさ。     「おい!ガキども!車庫裏に近づくな。そう、そっちでレスリングしてろ。」   ココん家のババアが丁寧にも四匹全部持って来やがったんだ。俺に半分似ているが、ココにも半分似てるんだ。流石に心が痛んだんだろうな?ガス室送りにはしなかったよ。俺にしか似てなかったら今頃どうなってたかな。 ある朝、目覚めると庭に四匹かたまって眠ってたんだ。   可愛いもんじゃねえか、お前もそう思うだろ? けど、俺に似るならロクな犬生は送れそうにねえな。   お前も気を付けろよ。 じゃあな!もう行けよ。 そうだ、ココん家の前を通ったら宜しく伝えてくれ。あと、ガキも元気だって事もな。         完
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