Chapter Ⅰ「日常」

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       ──伊波 恭介 イバ キョウスケ    これが俺の名前。  市内の公立高校に通う、ごく一般的な高校三年生のつもりだ。  でもどうやら俺の人生は、人より少しばかり不幸にできているらしい。    小学校にあがる前、両親を交通事故で亡くした。  残されたのは幼い俺と年の離れた兄貴だけ。    その兄貴も俺が小学校を卒業すると同時に、俺の前から消えてしまった。    完全なる孤独。    俺はそれ以降、親戚の家、麻生家で暮らす事となる。    他の親類縁者たちは、俺のせいで両親が死に、兄貴が消えたと思っている。  そんな厄介者と関わり合いたくないと、俺を預かることを拒否していた。    そんな中俺を引き取ってくれたのは麻生家だけだった。  麻生の人たちは、とても良くしてくれた。    楽しかった。  失った温かさを取り戻した気がしていた。    でも、俺の中にある"孤独"が完全に消えることはなかった。   だから麻生の家を出た。  元々、他人の家だ。あそこは俺の居ていい場所じゃない。    麻生の叔父さんや、叔母さんは俺の決心が鈍らないとわかると  【わずかばかりだが...】と、お金を用意してくれた。    俺は始め断ったが、結局叔父さんたちの厚意に素直に甘えることにした。  これで、甘えるのは最後にしようと決めたからだ。    これが、入学当初の出来事。  それから俺は小さなアパートを借り、学業とバイトの両立を図っていた。    
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