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「じゃあ、ずるは無しで再開しようか?」
「・・・少年、余りいい気にならん方が良いと思うがね。勝手に仕切るな。この、小わっぱが」
嵯峨野博打の顔に脂汗が滲む。酷い顔だ。
僕は、只当てただけなのに。
―――実は僕だってずるに近いことをした。僕は見たのだ。トランプの山を置いた瞬間のほんの少し浮いた一番上のカード、“ハートの4”を。
お互い様って訳だ。さて、話に戻ろう。
「でも貴方はこんな“小わっぱ”が欲しいんでしょ?さあ、やろうか。もう一回仕切り直し。僕の当てたカードもチャラにしてあげるし、貴方がきって良いよ。嵯峨野博打」
「だから仕切るな!!この・・・・・・っ“人喰い”が!!」
ぴくりと、僕は初めて嵯峨野博打に興味を示す。というより、初めて嵯峨野博打に感情が沸く。今まで実はどうでも良かった。
怒り。
「――・・・その名で呼ぶな。“今はお腹が空いてない”からいい気になっていられるけど、そのうちお腹が空くかもよ。嵯峨野博打、
“喰”らうよ?」
食事はまだだ。
食事はまだだ。
まだだ。まだだ。まだだ。
食べてはいけない。
食してはいけない。
ぞくりと嵯峨野博打は震える。
「わ、悪かった。では、謝礼の代わりといっちゃなんだが、私のトランプシャッフルを見せよう。・・・悪かった」
にやり。
謝っていながら、にやり。怯えただけか。懲りてはいないな。
嵯峨野博打はばっとトランプを投げる。ばらばらになったトランプを空中で束ねる。そしてテーブルに広げ、束ね、指の間を使って四分割しそれをシャッフル。縦に横に縦に横に束ね、束ね、束ね。高速に、高速に。シャッフル、シャッフル、シャッフル。
早いし、軽やかだ。
「――・・・さすがぁ」
でも、まだクラウン・ゲームは始まったばかりだ。
とんとトランプを置く。
「では・・・さっきのは無しでずるも無しでやろうかね」
にやり。
「・・・別にいいよ」
「君は本当のクラウン・ゲームを知らない。教えてあげよう。この嵯峨野博打が楽しく愉しく、楽しく愉しく・・・ひひひ・・・」
“当たるはずがない”。嵯峨野博打はそう言った。いいじゃないか。楽しくなってきた。
「では、僕は人生全てを賭けて」
「ひひひ・・・私は未来の名誉を賭けて」
嵯峨野博打は本気のようだ。
さあ、
「「再ゲーム、スタート」」
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