廃市で生きたこの“僕”

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「え?これあんたの車?マジですか。し、少年はいい車持ってますねぇ。どこで買いましたあ?・・・い、いい趣味してますねぇ。す、素敵な本がいっぱい」 必死の弁解、否、命乞いである。 「んなことどうでもいいよ。大体さっき“くだらない”って言ってたじゃん。僕の本達のこと。それはその本達と本の作者様と僕を否定したことになる。 ホントどうしてくれるの?この本。綺麗に複製してくれるの?この“廃絶”の時代、“平成”の本の復刻版なんて高いんだからね。滅多に見付からないし。マジどうしてくれるの?え?」 今度は銃口を目に向けてみた。青年はみるみる内に青ざめていく。そしてごそごそと、そのだぼだぼのズボンのポケットを探りだし、そして――――・・・がばりと銃口など目もくれず、どさり・・・!―――・・・と札束を出し土下座してきた。 「俺、宮神山 賭(ぐうじんやま かける)!!18歳!これで許してちょ―――!!!」 「・・・・・・」 自己紹介に札束。どういう組み合わせだ。 ああ。こいつ、バカなんだ。だからこれがこいつの精一杯なんだ。 にしても、この札束は・・・・・・。 多い。壱万円札がざっと札束5つて゛50万じゃない。これは500万だ。「・・・・・・っ!」 “廃絶”のこの時代、前の時代、“生産”でもない限りこんな大金簡単に出せるはずがない。買える。これなら江國香織先生様のまだ揃えてない本も買える。 「・・・あんたってボンボン?」 土下座のままガタガタ震えながら宮神山賭は答える。 「ういっす!て・・・じゃない、ボンボンっす!ボス!」 て?まあそれはいいや。口が回らなかったのだろう。というよりボスって。マジ精一杯なんだ。 銃口を仕方無く下ろす。なんかいじめっこみたい。からかうのはよそう。 「いいよ。この札束5つで、許すよ。行けよ。僕はこれから、この金で本を買いに行ってくる。行け」 「マジですか?!ありがとうございますです!!あ、そうだ」 「?」 解放された宮神山賭はパッと顔を上げ笑顔で訊いてきた。 「あんたの名前は?!俺名乗ったし。次あんた!!はい、どぞ!」 人懐っこい人だな。ノリも滅茶苦茶いい。 仕方無く僕は名乗る。同じ価値の情報を。 「亜。16歳だ」 次の日、江國香織先生様の復刻版本を歩いて買いに行って帰ってみると、宮神山賭が居た。
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