廃市で生きたこの“僕”

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「あ?」 「そう、あ」 「あ?」 「だから、あ」 「あぁ?!」 「違う。あ。亜鉛の“亜”って書いて“あ”」 「阿呆の“阿”じゃなくて?阿片の“阿”じゃなくて?」 「初対面なのに失礼だな。例えが例えだ。だから亜鉛の“亜”だってば」 「そっちの例えも例えだと思うせ゛。ん、解った。フーン。年2つ下なんだ。亜は」 「其れがどうかした?て゛も名乗ったところでお互いこれからの利益にならないね」 「は??」 「だってこれから一生会わないんだから。意味も利益も無い。どこかですれ違うことも無いからね。“僕はずっとここにいる。”これでお別れ、それじゃ、僕は本買いに行ってくるから。これでお別れ。さようなら。バイバイ」 ―――・・・そういえば、別れる前に云ってたじゃないか。呟いたのを聞いていたじゃないか。彼はこう言ったのだ。「フーン。じゃあここに毎日いるのかぁ」―――・・・と。そうニヤニヤしながら。否、ニコニコしながら。 「ちっす。お早うゴザイマス!!朝帰りなんてホントは歓楽街でも行ってたんじゃないのぉ?いやん、亜のムッツリスケベ。昨日のお昼頃から俺1人にしやがって☆」 「・・・・・・」 「あ、ここ時計無いけど今何時ぃぃー?」 「・・・午前7時05分」 「おお!朝飯時の王道時間じゃないか☆味噌汁出来てるわよ。亜、はい、亜ーん。なんちって☆」 バサバサバサ・・・。 「あら、大事な大事な新しい本落としましたよぉ。ん、どした?」 「・・・なんで。まだいるの」 「ういっす!良くそ゛訊いてくれました!!亜ってこの車の鍵付けっぱなしでお出掛けしたじゃん。こんな珍しい車持っていかれないように見張ってました!!まあ夜はねちまったけど。あはは、でも盗まれてなくて良かったな!」 ―ぶぉっ! 「うおぅ?!またあっぶねぇことしやがって。本は大事だったんじゃないのぉ?分厚い本顔に投げやがって。あ~あ、味噌汁の中、入っちまった。どした?さっきから突っ立って。あーちゃーん ?」 そのまま顔に当たっていれば良かったのに。 「もう☆お転婆さんね☆」 一本、いや墓穴を掘ってしまった。 「ん、ヤベ、味噌汁冷めちまう。ガス切れちまってた。亜ー、他ガスないんかい~?」 そうだ、僕は、僕は“ここにもう来るな”とは言わなかったのだ。
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