お爺さんと苺 

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「ほら、ロッシ。寒いから中に入りなさい」  振り返ると、ご主人様が手招きをして、私を呼んでいた。  まだ“あれ”は降っていないけど、確かに寒い。犬の私ですらそうなのだから、お爺さんはもっと寒いのかも知れない。  柴犬の私は、冷たい庭のタイルを通って縁側から廊下に飛び乗り、お爺さんの前に座る。 「よしよし、ロッシはいい子だね。さあ、寒いから窓を閉めよう」  私の頭を撫でながら、お爺さんは大きな窓を閉めた。  真っ白な髪の毛をしたお爺さんは、私を飼い始めてからそろそろ一年になる。  お爺さんは、とても優しい。私が部屋のごみ箱をひっくり返しても、お客さんに吠えても、今まで一度として私を叱ったりはしなかった。  それどころか、いつも私に謝るのだ。  ごみ箱をひっくり返した時は、私が食べられる様なみかんの皮を入れておいた自分が悪いと言った。  お客さんに吠えていた時は、私の知らない人を家に招き入れた自分が悪いと言った。  兎に角、お爺さんはいつでも私に優しくしてくれるのだ。  それが、私にはとても心苦しかった。  一人暮らしをしているお爺さんは、体が不自由だ。体調が優れない時は、一日中布団に寝たきりと言う事もある。  でも、私はただの子犬だ。お爺さんを助けて上げたいけど、何も出来ない。  その事実が、私をいつも苦しめていた。  私に出来るのは、ずっと傍にいてお爺さんの話し相手になる事位なのかな。  
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