気紛れ一話完結型

記憶喪失

ほら、たまにあるでしょ？

訳が分からなくなったりとか、
気付いたらこの世に存在していない感覚とか、

そんな感じなんだよ、きっと

きっと

記憶がなくなった感覚は

ねぇ、そう思わない？

＊＊＊＊＊

貴方にそう問われて刻が経った今。
その意味を理解する。

(あぁ、そうか。誰かは忘れてしまったけど、貴方が言いたかったのはこの感覚ですか)

確かに、訳が分からないし、この世に存在しているのかさえ分からない。
それでも、生きているんだと分かる。
なんとも不思議で妙な感覚だ。

この事を知っていた貴方は、いつもこんな奇妙な感覚を持っていたのですか？

とても辛く、悲しいけれど当たり前だというこの感覚を。

なんとも残酷な事実ですね。

あぁ、涙が零れ落ちる。

静かに、ただ静かに。

零れ落ちた涙の意味を誰かが理解する事もないだろう。
いや、理解などできるものか。
あの人以外の者に、理解できるはずがないのだから。