非情な現実

4/33
前へ
/45ページ
次へ
「そうそう、今日あんたの学校に転校生がくるわよ」  俺が茶わんを手に取り、香織が肝臓を飲み込むと、母さんはテーブルに身を乗り出して言った。その瞳は輝いている。さすが近所で情報屋の称号を持つだけはあるな。 「へぇ、どんな人?」 「家のお隣さん」 「ぐぶっ!!」  俺は口にしていた魚を吹き出しそうになり、無理矢理飲み込んだ。しかしそれが裏目にでて魚の骨が喉に刺さった。  俺は慌ててご飯を口に掻き込み、お茶でそれを流し込む。隣では香織が背中を叩いてくれている。 「と、隣は空き家じゃなかったのか!?」 「三日くらい前に越してきたわよ。それとね………かなり美人だったわよ」  最後のほうは多少含みのあり言い方だ。  俺は涙目になりながらお茶を啜り、母さんのほうへ向き直る。 「あんた、落としなさい」  絶対に言うと思ったよ。  母さんは美人を見ると必ずこう言う。俺の年齢が彼女いない歴と同じだからといってそういうのだ。俺には恋愛の自由もないのか。 「ちょっと変わった外見だったけど美人には変わりないわ」  なんか少し矛盾してる気がするがまあいいか。 「気が向いたらね」  俺は内心気が向くことは絶対にないと思いつつもそう言った。  香織がちらちら横目で見てくるが、それも気にしない。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加