第一章

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    ―アースガルズ城― いつもと変わらない日常。 それは城内でも同じだった。 現皇帝であるロイ・マックスウェルの居室はアースガルズ城最上階にある。 室内は、手前に皇帝用のリビング兼接客室があり、奥に寝室と繋がる構造となっている。 皇帝の部屋というと贅沢な部屋を想像するが、国家予算が厳しいわけでは無いが、ロイはそういったものを嫌い、テーブルやソファ等の最低限の家具がおかれているだけである。 今日も皇帝の部屋には、数少ないシェバド貴族であり最高大臣のウェルナー・カスケードが遊びにきていた。 旧シェバド帝国が降伏した時、皇族と貴族は次々と処刑された。 しかし、由緒正しき血を絶やすことはならないと、当時の首都クロノスシティが開城する前に、皇族と一部の貴族は子息息女を一般市民に紛れさせていた。 現在のシェバド帝国において、新興の下級貴族やその枝を除いて、古来から続く伝統の家系は、皇族のマックスウェル家の他、カスケード家とファンバステン家のみである。 それ故かハルバード脱出以前から親睦は深い両家。 皇帝のロイと大臣のウェルナーは幼なじみで、身分は違えど対等に接していた。 シェバド伝統の紺碧の貴族服を纏ったロイと、ガタイが良く軍の将校服を着たウェルナーがソファーで対面して語らっている。 ウェルナーは貴族服より軍服を好んで常用していた。 「ウェルナー、今年は国家再建100周年だから城も華やかになったなぁ」   「そーだな。明日は国中で祭りをするらしいぞ」 「ほぅ、それは楽しそうだ。俺も参加してみようかな」 「国民に慕われているからな。皆、お前を連れだしたがるだろうよ」 祭典の話で盛り上がっていると、誰かがドアをノックした。 「陛下、緊急連絡です!!」 「ああ、入れ」 「失礼します」 ドアをノックしたのは伝令の兵士だった。 ロイの部屋には国家元首や重役以外が直接電話をかける事は禁じられている。 対面の伝令室で重要度毎に選別され、雑務は兵が処理し、後に書類としてロイの元に届くシステムになっているが、緊急伝達はすみやかに兵が直接伝達する事になっていた。 「陛下、謎の通信が送られて来ました。妨害されていてはっきりとはわかりませんが、恐らく救難信号です」 「救難信号?どこからだ?」 「方向はパールグリスデンです」 「そうか……、ご苦労。下がっていいぞ」 「はっ!!」 通信兵は敬礼して部屋から出ていった。
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