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「なんか嫌な予感がするな……」
ロイがつぶやいた。
「ああ、電波妨害されているなんて怪しいよな……」
通信手段を断つということは、対象が別の部隊や組織との繋がりがあるものと知っていて、情報を制限するために行っている。
それが意味するものとして、2人の脳内には侵略と戦争の文字がよぎっていた。
他星における紛争や敵対的先住部族との小さな争いは何度かあり、たしかに100年の平和は完全なものではなかった。
戦争と呼ぶに相応しい大戦が、いつかは起こると想定し、備えてはいるのだが、まさか自分の代でそれがくるなどとは思ってもいなかったのだ。
「…………」
「…………」
「艦隊を派遣するか……」
短い沈黙のあとロイがつぶやいた。
「艦隊を動かしたら国民が動揺するぞ。せっかくお祭りムードなのに……」
戦争となれば国民を巻き込むのは必至である。
不確定段階の現在、なるべくなら幸福の絶頂にいる彼らの時間を崩壊させたくは無いと考えていた。
本星には戦艦や空母が編成された主力の艦隊が駐留しているのだが、大型艦を常駐させるのは経費がかかる為、平時は地下にあるドックに停泊している。
普段の訓練はシュミレータで行い、有事以外で出航するのは、月に1度の航海訓練と航空隊訓練のみである。
「国民に不安を与えるのはまずい……。だが、緊急事態だ」
「そうだが……」
最高大臣であるウェルナーには軍事権があり、当人も軍事国家推進派ではあるものの、立場をわきまえて、国家の興廃につながる戦争を行う事には非常に慎重だった。
「そういえば、この時期は、ヒューイが遠洋訓練中だったよな? やつを向かわせよう。これなら民間の宇宙船にも怪しまれない」
少しの間をおいて思い出したかの様に提案した。
「おっ、それは良いな」
この案にはウェルナーも納得した。
「この先、非常事態となるだろうから、俺は各部署と打ち合わせしてくる。じゃあな」
部屋を出ようとするウェルナーをロイが引き止めた。
「あっ、まだ、戦争になると決まったわけじゃないし、ついでにヒューイへの指示もしといてくれ」
「……わかったよ」
戦時は皇帝が陣頭指揮を採る伝統となっているのだが、まだ戦争状態でないとはいえ際どい状況だが、いつもの事だと引き受けた。
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