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「篤史。ご飯よ…。」
母親の藤岡喜美枝は篤史の部屋の前で声をかけた。
だが、返事はない。
「篤史…。ご飯…、ここに置いて置くわね。」
そう言い残すと喜美枝は一階に戻った。
篤史は窓の外をただ見つめていた。何も考えず、何も喋らず…。
静寂なる空間は孤独と悲しみを生んでいた。
だが、篤史が我に還る時間がある。
携帯電話のアラームが鳴る午後九時…。
その音は篤史の幼なじみ『平岡千香』の大好きな曲…。柴田淳の月光浴だ。
それが流れる度に篤史は大声で泣いてしまう。
机の上にある、篤史と千香が写っている写真立てと、埃が一つも被っていないオルゴールが千香に対する想いを表していた。
一階のリビングには喜美枝と篤史の妹、凉香と弟の保弘が居た。
喜美枝は洗い物をしながら、冷蔵庫からアイスを探す凉香に、
「ねぇ…、凉香は千香ちゃんの事をどう思う…?」
と、話かけると、
「私は小さい頃から遊んでもらってたし、本当のお姉ちゃんみたいで…。でも、篤史が可哀想だよ。あまりにも突然だったから…。」
と、言葉を濁らせた。
「そうね…。」
と、喜美枝は言うと手を止めた。
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