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目を開けると、白い天井が見えた。
やけに体が重い。
規則的に聞こえる不可解な電子音が耳にうるさく響く。
ふと自分の体を見るとわたしの腕には何本ものコードのようなものが繋がれていて、その一つを辿るとそこにはブラウン管に波を打つ線とそっけない文字列を映し出す機器があった。
――それは紛れもない心電図だった。
気が付けばわたしの口と鼻には人口呼吸器が取り付けられており、わたしはそれのおかげでかろうじて呼吸ができているといる状態だった。
首を動かして反対側を見るとそこには白い簡素なテーブルがあって、その上に一冊の本が置かれていた。
それは、あのとき図書館で読んだ――はず――の、ごく普通の世界で二人の男女が織り成す恋愛小説だった。
そこでようやくわたしは思い出した。
ここは病院で、わたしはこの病院の入院患者なのだということを。
そして、わたしは悟った。
彼との思い出が、全て夢だったということを。
目の端から、熱いものが零れ落ちた。
それは、水よりももっとずっと寂しい粒。
わたしは目を閉じる。
夢の続きを見る為に。
そしてわたしは、深い眠りに落ちていく。
例えこの身が朽ち果てようとも――
わたしは、わたしの夢の中で生き続ける――
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