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それはゴールデンウィークも明けた五月半ばのことだった。
読書以外の趣味もなく本を読むのが日課だったわたしは日曜日、遅い昼食を終えてから新しい本を探そうと市内にある図書館に初めて足を運んだのだった。
館内は本を読むのに適した明るさの照明で照らされており、平日なのにも関わらず多くの人で賑わっている。
と言っても図書館なので騒いでいるような人はいない。
人の多いところはあまり好きではないが、ここはそれぞれが自分の空間を持てるためわたしも落ち着いて読書ができそうだった。
そもそも、図書館とはそういうものなのだが。
書棚から適当な本を取り出しては開いて目ぼしいものを何冊か見つけると、わたしは本の重さに少しよろけながらも近場にあったテーブルに本を慎重に置き、息を一つついてから椅子に腰を落ち着けた。
今わたしがいるテーブルには他の誰も座っていない。
わざわざそういう場所を選んだ。
近くに人がいると落ち着かないから。
何となく辺りを見回して改めて図書館の静けさを味わってからわたしは本の表紙をめくった。
それは高校生から大学生に至る二人の男女が織り成す恋愛小説。
SFでもミステリでもファンタジーでもない、ごく普通の世界の物語だったが、透明感のある作風にわたしは自然と惹かれていった。
四分の一ほどまで読み進めた辺りでわたしははっと顔を上げ時計を探した。
もうそろそろ閉館時間になろうとしている。
時間を忘れて読書に没頭していたらしい。
悪い癖だ。
続きは帰ってから読もう。
そう思い本を借りるためにカウンターへと向かったわたしはそこではたと気が付いた。
本を借りるためには貸し出しカードを作ればいいのだろう。
でもどうやって作ればいいのだろうか?
職員に聞こうとしたが数少ない職員たちは皆忙しそうにしている。
今話しかけても迷惑になるかもしれない。
閉館時間は刻々と迫ってきている。
今日借りられなかったらまた来週来なければいけない。
焦りだけが募り、わたしはただいたずらにカウンターの前おろおろとするばかりで、
「何してんだ?」
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