キモチ

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あれから半年、彼とは顔を合わせていない。 あの時彼の言っていたことは本当で、校内で彼の姿を見かけたことは何度かあった。 声をかけようと思ったこともあった。 だけど、そんな勇気をわたしが持ち合わせているはずもなく、ただいたずらに時間が過ぎていってしまった。 まるであの図書館の時と同じように。 彼に近付きたかった。 彼と話がしたかった。 何故だろう。 たった一度、図書館で親切にされただけなのに。 彼のことを考えると胸が苦しくなって、その理由が分からないことが辛かった。 ・・・・・・いや、本当は分かっていた。 分かっていたから、わたしは精一杯の勇気を振り絞って行動に出た。 彼が一年五組の生徒であることを知ったわたしは、同じクラスにいるわたしによくしてくれる女子に頼んで、放課後、文芸部に来てくれるように頼んだ。 帰宅部であるらしい彼を、文芸部に誘う為に。 ・・・・・・我ながら回りくどい。 幸いにも彼は図書館でのことを覚えていてくれた。 だったら、わたしの言うことは一つだ。 あの日、あの時、あなたに出会ってから―― 「わたしは、あなたのことが――」
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