4人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
雪を踏みしめる音がいやに高く聞こえた。
両眼を焼く白一色の中、動くはこの身ただひとつ。
しかし気配は満ち満ちている。
大地が、空が、知覚が、直感が、声なき叫びを上げ続ける。
時は、目の前に迫っている。
零下の世界。
凍える雪風の中、氷に閉ざされた山々の隙間にも、
しかし確かな鼓動が息づいていた。
それは例えば、細い火を囲む温かな笑顔たち。
それは例えば、洞穴に潜み獲物をまつ爪と牙。
極限で紡がれる命は、常に掛け値ないしなやかさを得る。
時は満ちた。無慈悲な大気は淡々と震え、彼の者の咆哮を乗せてくる。
それは例えば、霊峰を統べる旧き暴君。
粗野ゆえに崇高なその猛りは、時には他の命をも吹き消さんと荒れ狂う。
さあ。狩人たちよ、心せよ。静の世界が牙を剥く――。
最初のコメントを投稿しよう!