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その女は校長が入ってくると丁寧で綺麗なお辞儀をした。
つられて俺もお辞儀をすると校長は軽く笑った。
校長のそんな行動が俺の緊張の糸を緩める。
「は、初めて、俺は甲斐 新之助です。この度この学校に転入して来ました。
これから1年間という短い間ですがお世話になります。」
会釈をしてからゆっくりと頭を上げる。
そしたら校長はにっこりと笑って「よろしく。」と言った。
そしてあの女の方をみると、さっきまでの嫌な感じの顔じゃなくて優しい笑顔やった。
それに驚き、俺はしばらくその女から目が離せへんかった。
見とれてる訳じゃない、けど、何故か目が離せへんかってん。
俺の視線に気付いたその女は「こほん。」と、照れ臭そうに咳払いして無理やり視線を校長に戻す。
そんなその女がさっきとはまるで別人に見えて、次は普通に色々話せそうな気がした。
そんな事を思ってると、校長が俺にとって聞きなれない標準語で話し始めた。
学校の雰囲気、授業の進め方、学校の教育方針。
校長は淡々と楽しそうに話していく。
「君には親御さんと来てもらうつもりだったんだけどね。聞いてなかったみたいだから君に全部話しておくね。」
そう言って話し始めたきり、これでかれこれ1時間位経ったんちゃうかな?(苦笑)
まあ、学校の話やししゃーないか。
って思ってからまた1時間経った。
校長の話は尽きひん。
いつからか関係ない話になってるし、俺には退屈この上ない事や。
しかも時間が時間やし、黙って家出て来た事もそろそろバレてる筈や。
早よ帰るつもりやったのになぁ・・・。
困った顔をしながら時計をちらちら見ていると、隣にいたあの女が俺の方を叩いて来た。
「・・・もしかして時間ないの?」
女の言葉に苦笑しながら頷く俺。
それを見た女は校長の話を遮り、事情を淡々と説明し始めた。
そしたら校長は驚いた様に話を止め、「すまんね。」といって俺に笑いかけた。
俺は気まずいながらも、「時間なんで失礼します。」と、方言混じりの敬語で挨拶して校長室を後にした。
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