序章 1

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 まあ、その「三角関係」はさておき、僕と次郎先輩と花ちゃんはとても仲がよかった。これは自他共に認めるところであろう。  僕は次郎先輩を慕い、次郎先輩は僕をかわいがり、花ちゃんはそんな僕らをにこやかに微笑みながら眺めるような関係で、いつも三人一緒に笑い、泣き、そして遊んでいた。  この排他的な三人の関係はすこぶる気持ちがよく、まるで何も知らずに楽園で笑いながら転げまわるアダムとイヴ(僕らは三人だったけれども)のような感じだった。  当時僕は高校生だったけど、高校生の誰もが感じているような将来の漠然とした不安だとかそんなものとは隔絶された世界で (実際のところ多少は感じないでもなかったが) 大好きな花ちゃんのことを思い、尊敬する次郎先輩のことを思い、この楽園がなくなってしまう可能性なんかについて微塵も考えたりはしなかったのだ。  そう、僕はとんでもなく馬鹿で愚かで、そして自分が考えているよりもずっとずっと卑怯者だったのだ。
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