1.再びの刻

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 レンシェは瞼を下ろした。  シェルヴィスの落ち着いた眼差しに、賢者は冷静に答える。  「そうだね。シェルヴィスの記憶、正しい」  その独特の口調は、平素のもの。  レンシェは宵闇の眸を開き、寝台に仰臥{ぎょうが}するシェルヴィスを見つめた。森然{しんぜん}とした眼差しに、シェルヴィスは僅かにたじろいだ。  「わたし達、ロゼウィン倒して、その代償として記憶を修正されたの。全て忘れて、新しい未来を生きていくために」  「……………」  「だけど、それでも駄目だったの。本質は、何も変わってなかった。……だからシュトラウスはわたしから放れて、独立した“1人”になったの。グレイルも一緒にね」  シェルヴィスは微かに瞠目{どうもく}した。  「ではつまり、もうそなたの中にシュトラウスはおられぬのか?」  「いないよ」  レンシェは頷いた。  「ずっと一緒にいたのにね。ロゼウィンを倒す旅でわたし、死んじゃったでしょ?」  事も無げに言ってのけ、レンシェは続ける。  「そのあと、シェルヴィスにシュトラウスを引き渡したから。わたしはもう、シュトラウスを受容出来ないの。シュトラウスが顕現しちゃったせいもあるけどね」
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