1.再びの刻

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 「……………そうか」  何を言っていいのか分からず、シェルヴィスの返答は曖昧なものになる。  レンシェは言及せずに微笑んで、寝台の脇を離れた。  「もう今は、何処に居るかも分かんないけど」  扉に手を掛け、彼女はきっぱりと言った。  「もし会えたら訊いてみるね、シュトラウスに。シェルヴィスの身体、治す方法」  「……すまない」  シェルヴィスの声と前後して、扉が閉まった。  シェルヴィスの病が如何程に急を要するかを推し測れる者など、あろうか。  始まりは、ひどい立ち眩みだった。  ただの疲労と無視をしていたシェルヴィスだが、2ヶ月前、あらかたの政務を終えて席を立った途端、ついに倒れてしまった。  特に熱が出るということはないが、全く体に力が入らないのだ。  当然、寝台に仰臥したまま身も起こせで、彼は寝たきりの老人の如く日々を過ごす生活を強いられた。  食事を受け付けぬことはないが、寧ろ寝たきりの身は余計に体力を消耗する。  剣を執ることは出来ぬまでも、それを寝台の脇に置いたままで、しかしそれを握ることが出来ない。  剣腕の衰えは、試すまでもなく明らかであった。  現在フィリムスに帰郷しているレノリアとラキタスにも報せは届いているが、未だ到着の気配はない。
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