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(あの薄絹……羅{ら}だな。しかも防寒用にか、ガウンも羽織ってるみたいだ)
羅の寝衣ということは、やはりレノリアである。
追いかけるために寝台から下りようとして、
(───うっ!?)
ラキタスは瞠目した。
体が動かない。
寝台に膠付{にかわづ}けされたかのように、全く動けない。
首から上も下も、全く自由が利かない。
筆舌に尽くしがたい恐怖に、ラキタスの総身が冷や汗に濡れた。
唯一動かせる目だけをあらゆる方向に凝らしたラキタスは、その碧眼を険しくした。
いつの間にか、1人の男が入り口の扉にもたれて腕を組み、ラキタスを見つめている。
世の夕陽全てをそこに集約したかのような赤毛は長く、腰まで伸びている。こちらを見つめる切れ長の鋭い双眸は、ヒトならざる金。瀟灑{しょうしゃ}とは言えないが、豪奢と言うには些か華美に欠ける衣装で長躯を包み、腰には立派な大剣を佩{は}いている。
「……久し振りだな、ラキタス」
神でさえ平伏しそうな儼然{げんぜん}とした声で、男は言った。
「新たき未来はどうだ、楽しめているか?」
「……何者だ」
ラキタスの低い誰何{すいか}に、男がくつくつと笑った。
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