2.真夜中の使者

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 「この姿では分からぬか? それとも、何も思い出していないのか……」  「何の話だ」  「ならば思い出させてやろう」  男は悠然とした足取りでラキタスに歩み寄る。衣服の装飾品や装身具と言った、金細工が音をたてる。  手甲を装着した男の手が、ラキタスの眼前で開かれた。  「───っ!!」  途端に襲ってきた怒濤が如き記憶の奔流に、ラキタスは声にならぬ叫びをあげる。  狂った走馬灯が収まった時、ラキタスは寝台に頽{くずお}れ、大きく息を乱していた。  「思い出したか?」  男の無情な問いに、ラキタスはあまりの息苦しさに涙ぐみながら頷いた。  「これで自己紹介もいるまい?」  ラキタスは再び頷いた。まだ言葉で答えるには、肺に空気が足りなかった。  しかし男は傲然と頷いた。  「そうだ、私だ。シュトラウスだ」  シュトラウスは勝手に窓を開けた。  冷たい夜風が肺に溢れ、ラキタスは咽せ返る。  冷然とそれを見るシュトラウスの長髪と装身具が、夜風に揺れている。  つまり彼は今や霊台などでなく、1人の存在として、その肉体が確立されているということだ。  「何故、貴男が此処に?」  いくらか落ち着いたラキタスが尋ねると、騎士が落ち着くのを待っていたシュトラウスが答えた。
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