3.密やかなる進行

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 スリーアナ国宰相ゲイヴォルグ・トリィクは、不吉を冠する名に拘らず、国の内外の一切を切り盛りするやり手である。そして彼の艶なる娘クィティナ・トリィクは、シェルヴィス皇太子の補佐官を担うがため、父と共に政務の全てに参加していた。  かつて密偵として優秀な腕を誇っていたクィティナの知識量や頭の回転の良さは、現在のスリーアナ国政界に欠かせないと明言して相違ない。  クィティナは高く結い上げた紫がかった黒髪に、すらりと背が高く、それでいて豊満な肉体は男心を擽ってやまない、極上の妖艶なる美女である。恐らく彼女が生まれてすぐに亡くなった母親似なのだろう。  そして、もう1人。現在のスリーアナ国に欠かせない人物が、リザリア大神殿出身の賢者である。  風変わりな灰銀色の髪に、常に静謐を湛える宵闇の眸。神秘に満ちた美の持ち主である。  とらえ所のない口調が特徴的な彼女は、トリィク宰相ですら判断に迷う書類にまこと的確な助言を与え、次々と捌かせてしまう。彼女の政治手腕も、恐るべきと言っていい。  いずれシェルヴィス皇太子が玉座に即{つ}いたなら、彼女も立派な重臣の1人となろう、と既に憶測も飛び交っている。  ところが、当のレンシェ本人には、全くその気がない。
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