3.密やかなる進行

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 機知英知に富むレンシェは、確かにシェルヴィスのよき理解者であり、シェルヴィスも彼女になら悶々たる胸中を明かせるようである。  だからとて、それが彼を支える柱の1つになることに直結はしない、というのがレンシェの弁である。  シェルヴィスの方も、強要する気はないようで、彼が健やかであった頃から、助言は求めても、尊大に呼び付けるようなことは決してしなかった。  ──お陰で、レンシェは皇王シェルヴィスの愛人である、という埒もない艶聞{えんぶん}まで広まった時期があるのは余談である。  そのレンシェが、難しい顔つきで窓台に頬杖をついていると、咎めるような溜息が室内に響いた。  レンシェははっとなって、がばと身を起こす。  「ご、ごめんなさい、エルト。すごくお行儀、悪かったよね」  しどろもどろのレンシェの視線の先には、彼女の恋人の姿がある。絹糸の如き上質な銀髪に、右は緑、左は黒い眸の、どこか鋼めいた雰囲気を漂わせる青年である。  「行儀作法の問題というより、俺の話を聞いていなかったように思えたんだが」  「……ごめん、何の話だったっけ?」  気まずそうに目を逸らすレンシェに、エルトは呆れたような微苦笑を浮かべた。
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