3.密やかなる進行

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 エルトは北方に聳える霊峰ミカシュアの、更に北にある小さな村、リミテアからこちらに移り住んできた。  厳しい冬の気候故に愛想がないのかと問われたら肯定ばかりも出来ないのだが、これでもレンシェと知り合ったことで、大分表情豊かになったのである。  レンシェとエルトが出会った切っ掛けは、晩冬の雪割草が咲く頃。リミテア村で、毎年恒例の“春来祭”である。  前年までは村内で行われていた祭りであったが、今年は遠方からも客を招こうということになり、シェルヴィス達も招待を受けたのだ。  エルト達は初対面であったにも関わらず、妙に彼らを懐かしく感じ、互いの性格も癖も、なぜか全て把握していた。  レンシェとエルトが恋仲となるまで、日数はかからなかった。  それも当然だ、と病床のシェルヴィスは密かに思う。  実を明かせば、彼らは“春来祭”が初対面ではない。  かつて──半年前、この世界を闇で覆い、全てを終わらせようと欲した存在を討つために、彼らは旅程を共にしている。その中で、エルトとレンシェは深く愛し合っていたのだから。  事の根源たるロゼウィンを討ったことにより時間は逆転し、記憶にまで修正がかかった。  レンシェは、それを全て覚えていた。
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