4.七夜過ぎて

4/5
前へ
/281ページ
次へ
 収支に目を通し、必要経費に承認を与え、家宰{ステュワード}と相談して領内の財政を賄うのである。  如何に類稀なる名君であろうと、その世に翳りのないわけがない。  特に、伝統的に皇王を担ぎ奉る政権と、土着の豪族たちの勢力が拮抗するようなことになれば、面倒事は増加の一途だ。  城主がそちらに気を取られて、万一地方へ赴くような事態へと発展したなら、皇妃たる者、陛下の相談役を担う義務があるのだ。  分かりやすく言って、皇妃には皇王の役目を肩代わりするという、臣下の身では決して叶わないことが出来るのだ。そのための地位、そのための力である。  シェルヴィスの名君振りは即位を待たずとも明らかである。その貴妃がシェルヴィスの肩を担えないとなってはスリーアナの大いなる危機であり破綻の前兆であり、フィリムスにとっても最悪の損失となる。  レノリアの懸念もここに端を発しており、コンパニオンと共に私室に籠もり切りである。  当初は例え付け焼き刃であっても早急に頭に叩き込んで、すぐにでもシェルヴィスの下を見舞う方針であったのだが、こうなっては風向きも変更の兆しだ。  全く別の理由で引き籠もられては、ラキタス1人で動くわけにもいくまい。
/281ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加