4.七夜過ぎて

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 詩吟、刺繍、竪琴といった世の貴婦人が嗜むことは、レノリアも腕が立つが、政治となれば話は別だ。  どれだけ時間を費やしても度が過ぎることはなかろうが、それも限界があろう。  レノリアのコンパニオンたるヴェネッタ・グーウィンも、その辺りが気に掛かっているらしく、昨夜ラキタスの下に、シェルヴィスと対等に渡り合えるまでの諸々の知識も教えて差し上げるべきなのか、と細やかな心遣いの書状が届いた。  (そんなこと、俺に相談されたってなぁ……)  いつだったか、シェルヴィスが受けてきた教育について、彼に直接尋ねたことがあったが、ラキタスは驚嘆と共に愕然としたものである。  北方統一語に南方語、近隣諸国の言語等を八ヶ国語を使いこなし、古語にも造詣{ぞうけい}が深いようだった。地誌、歴史、古典、文芸等の一通りの学問は修めているらしく、更に政治経済についても学ばねばならぬというのだから、脳の容量からして自分とは全く違うのだと思わざるをえなかったものだ。  確かグーウィン夫人は寡婦だった筈だが、シェルヴィスと近い知識を教え込むとなれば、彼女は相当に教養深い淑女だ。  「そうだ。いいこと思いついた!」  いきなり立ち上がった傍迷惑な騎士団長は、そのまま砦を出ていってしまった。
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