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レンシェは宵闇の眸を限界まで見開いた。
「フィリムスから半日で走ってきた!? 何のために!?」
「レンシェに相談するのが、一番早いかと思って」
「それだけで、ご婦人まで一緒に……。信じられない! 申し訳ございません、グーウィン夫人!」
激しい勢いで体を二つ折りにするレンシェに、ヴェネッタ・グーウィン夫人は寛容に微笑んだ。
「よろしくてよ。道々、ラキタス様と駈け競べまで出来たのですもの。楽しませて頂きましたわ」
「え? 俺、まずいことした?」
きょとんと目を屡叩{しばたた}かせるラキタスに、レンシェは半ば以上、拝むような目を向けた。
「ご本人、前にして言うことじゃないけど、本来、女性を伴っての旅程っていうのは、女性に合わせるものなの!」
「あ、そうか!」
はたと手を打ったラキタスは椅子を立ち上がり、びしりと身を折った。
「多大なるご無礼、大変失礼致しました!」
ヴェネッタは苦笑した。
「いいんですのよ、ラキタス様。ご存知のように、わたくしは田舎の出身ですもの。馬で風を切るのは久々で、とても楽しゅうございましたわ」
「グーウィン夫人」
円卓に茶器を置きながら、レンシェが改まって口を開く。
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