5.晩夏の一幕

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 「突然で申し訳ございませんが、レノリア皇女殿下のご様子は如何ですか? 我らが皇子殿下の突然の病臥に、そのお心を痛めておいでなのではと、お察し申し上げます」  「えぇ……」  ヴェネッタは目を伏せた。  「それはもう、とても御心を割いておいでですわ。きっと皇女様のお背中に翼が有ったなら、すぐにでも飛んで行かれたに違いありません。ですけれど……」  ヴェネッタは頬に手を添えて、美しい角度で首を傾けた。  「このところ、レノリア様のお心に影を落としているのは、何だか全く別の事柄のように思えてなりませんわ」  ラキタスは微かに瞠目した。  前々から思っていたことだが、ヴェネッタの観察眼の鋭さは、騎士にも劣るまい。  「別の事柄、ですか?」  尋ねるレンシェに小さく首肯し、謹み深いヴェネッタは、賢者手ずから煎れてくれた紅茶に口をつけた。  「これまでは、目に見えてお忙しなくお勉強をなさっていたのですけれど、急にお時間をかけるようになられて……。勿論、中途半端な皇后になど、なって頂きたくはありませんのよ。そのためでしたら、わたくしも厳しくする所存ですの」  ははぁ、とラキタスは感心して顎をさすった。
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