5.晩夏の一幕

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 本宮から近い防壁を第一廓と呼び、そこより外へ順当に第二廓、第三廓と呼ばれている。  レンシェはリザリア大神殿から移り住んで来た際、城下町に私宅を構えたのだが、現在はシェルヴィスの容態が急変した事態に備えて、第三廓でもとりわけ西離宮に近い一角を私宅としている。  現在、レンシェの城下町の私宅は、以前より同棲しているエルトが管理しているが、彼もしょっちゅう第三廓のレンシェの私宅で起臥をしている。これが運良く転じて、レンシェとシェルヴィスの妙な艶聞が霧散したのだから、有難いことである。  「どやって、ここまで来たの?」  「直接、城の人に訊いた。本当はエルトに確認したかったんだけど、城下町って広いから、諦めた」  「そうだったんだ。一応、第一から第三廓までがスリーアナの王都ってことになってるから、本当なら身分証明とかの検問、厳しいんだよ」  ラキタスは苦笑して、フィリムス国エレシュ騎士団の制服の外衣の裾を摘{つま}んだ。  「こんな目立つ格好だと、これだけで身分証明になるみたいだぜ。助かるけど、悪用された時が怖いぜ」  「別に、服装だけの問題じゃないよ。ラキタスとレノリア姫さま、スリーアナでは皆知ってるから」
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