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なよやかな薬指の繊細な銀指輪に触れ、夫人はいとおしむように続けた。
「この先、どんなに素敵な殿方が現れましても、わたくしの夫は生涯ただ1人ですわ」
さすがにこういう話題には同性であるレンシェの方が敏感だ。
「素敵な方だったのでしょうね。お会いしたかったものです」
と、慈しみ深く微笑んでいる。
ヴェネッタは微かに頬を染めた。
「わたくしが嫁いで良いものか、とても迷いました。でもあの方は、他の誰よりもわたくしがいいと、そう仰って下さったの」
「まぁ……」
頬に手を添え、レンシェも嬉しそうに笑う。
「お羨ましいことです」
「あら、レンシェにもいますでしょう? そういう方」
「え、えぇ。その──とても、わたしを大事にしてくれる人なら」
面映ゆそうに答えるのは、相手に合わせての行動だろうか、と観察するラキタスに、レンシェが目を移した。
「ラキタスは、どう?」
「俺? そりゃいるよ、好きな人。高嶺の花だけど」
「あら。ラキタス様に想われるなんて、その方はとても幸せですわね」
「いや、婚約者がいますから。俺はただ、あの人の笑顔が見たいだけですしね」
朴訥とした純真{うぶ}さに頬を染めるラキタス。
晩夏の一幕は、限りなく平和に見えた。
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