7.先を憂う者

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 深々と溜息を吐くシェルヴィスに、クィティナは艶めいた角度で首を傾げた。  「如何なさいました?」  「いや……。まこと、そなたらには苦労をかける。如何で贖えば良いか、とな」  クィティナは艶っぽく紅唇を微笑ませた。  「別に苦労してるなんて、思ってないわよ? わたしもお父様もシェルヴィスが大好きだから、貴男の力になりたいというだけ」  「……すまない」  「そんなに暗い顔ばかりしていたら、治るものも治らないわ。病は気から。しっかりなさいな」  クィティナの心優しい艶笑に、シェルヴィスも自然な微笑を返した。  「そうよな。父上の補佐を担う者として、気弱なるは愚かよ」  「そこまでは言っていないのだけどね」  クィティナはシェルヴィスの寝台の傍らに椅子を寄せ、そこに腰を下ろした。この西離宮に運び込まれている漆塗りの椅子は、皇太子が着席するには、あまりに固いと言える。  「具合はどう?」  「一進も一退も。したが、強いて言うなればそろそろ腰が痛い」  2ヶ月も寝たきりでは、凝り固まって当然だろう。  「気分転換でもする? 西離宮の裏庭なら、国民の目に触れることもないわ」  「……いや、良い」
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