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暫くの間。
「――忠興様、私は貴方の妻。乱世たる今に生きる武将の妻として、未亡人になる覚悟はできておりまする」
一体何を言い出すのか――。
忠興は目を丸くしながら珠見ている。
夫婦となって、まだ五日。
なのに、未亡人、などという言葉が飛び出すとは。
もう忠興には何が何だか見えていなかった。
そして、彼は笑い出した。
大声を上げて笑う。
「噂に聞く明智の姫とは大違いだ」
忠興は額を押さえながら、肩を震わせ笑う。
その忠興の様子に、納得行かず珠はムッと眉を寄せる。
ふたりの未来を思っての行為だというのに、彼は何も気付いてはくれない。
忠興は草履を脱ぐと、ふて腐れた珠の目の前へと歩み寄った。
そして、笑みを浮かべ珠の顔を覗き込む。
「何を思うて悪さを致した?」
「――」
悪さ、などではないのに。
珠はまるで拗ねた子供のように忠興の視線から、目を逸らす。
忠興は責めるつもりなど毛頭ない。
理由が知りたい。
それだけのこと。
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