心のまにまに

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寄り添うように、時を過ごし、その年の春。 珠は、女児を産んだ。 忠興も待ち望んだ第一子。 その産まれて数日の、小さな小さな命を忠興は腕に抱える。 壊れ物を扱うように慎重に。 しかし、生まれたばかりの娘は母を求め泣く。 そんな娘に忠興は苦笑を浮かべた。 「そなたの父ぞ。何故に泣く」 あやそうにも娘は泣き叫び、小さな体を動かし暴れる。 忠興は、ため息をつき娘を珠へと渡した。 泣いていた娘は、珠が抱くとぴたりと泣き止む。 「子とは奇っ怪なものよ」 眉を寄せ、静に眠る娘を見ながら忠興は告げた。 ふふ、と珠は笑いを零す。 確かに、子を見るなり奇っ怪と発する男は多い。 中でも、忠興の父親が仕える主君は自らの子に、奇妙丸と名付けたのは有名な話。 奇妙だから、と言ってそんな名前をつけるのはどうかと思う。 むしろ、幼名だから許されるのか。 .
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