心のまにまに

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「忠興様…奇妙な名だけはおやめくださいね」 一応、釘をさしておこう。 忠興は黙り込み、罰が悪そうに頬を掻いた。 まさか、そんな名を考えていたのか。 珠は小さく笑いながら、生まれてきた娘を大切に抱く。 彼との子。 愛し合い生まれた子。 珠はそっと肩を抱き寄せられた。 もたれ掛かるように、忠興の肩に頭を預ける。 指先が髪に絡められ、くすぐったそうに珠は笑う。 彼は愛してくれている。 生まれたこの命と、その命を育んだ自分のことを。 その優しい瞳で分かる。 暖かい穏やかな気持ちが伝わる。 「我が姫に名を与えねばな…」 「ええ…」 けれども、今はこの穏やかな空気に包まれていたい。 やがて、生まれた娘が歩くようになった頃――。 珠は男児を生んだ。 忠興の後を継ぐ嫡男。 家族が増え、賑やかになる。 笑いが絶えない日々。 忙しくとも、必ず夜は共に眠りに就く。 幸せ過ぎる日々に、珠は星をみることを忘れていた。 空には無数の星が輝く。 その中に、朱く光る星がひとつ。 以前、その星は素晴らしい輝きを放ち一番に煌めいていた。 その行く末が、明るいことを示唆している。 しかし、今その星は、まるで炎のような朱に包まれている。 朱の星は不吉な知らせ。 珠が星の異変に気付いたのはそれから三日後のことだった――。
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