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それを知っているのか、知らないのか。
忠興は珠に触れることをしない。
その距離がふたりの今。
離さなければいけないのに、離せない。
離れなければいけないのに、離れられない。
それがふたりの心。
静かな室に風が吹く。
珠の髪が揺れる。
風を追うように、珠は窓の外を見やる。
儚げな瞳で、夕焼けの空を見つめている。
あぁ――いつの間に彼女はこんな魅力的な女性になってしまったのだろう。
妻であったのに。
何よりも守りたかったのに。
だから。
「珠、大坂に戻ろう」
願った。
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