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珠は驚いた表情で忠興を見つめる。
まるで、冗談でしょ、と言いたそうな目で。
けれども、彼の目は本気だ。
昔、出会った彼の真摯な眼だ。
それに彼は簡単に嘘をつく人ではない。
許されるはずがないのに。
伸ばされた腕を掴むも払うも自分次第。
彼は無理強いはしない。
選ぶのは自分。
「私は――」
なんて薄情なのだろう。
こんな時、星を見たいと、頼りたいとするなんて。
自ら逃げたというのに。
答えを求める内に、想いが溢れ出す。
透明な雫となって、流れ落ちる。
ぽろぽろ、と。
着物の色が僅かにかわる。
彼を、求めることをやめたのに。
彼を、笑顔で迎えるだけで良かったのに。
彼は――忠興は、望んでくれている。
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