想いは遥かに遠く深く

7/7
前へ
/43ページ
次へ
そっと、忠興は珠の肩を抱き寄せる。 答えを聞かなくとも、解った。 珠が、戸惑っているのなら。 引いてやればいい――。 手を伸ばして、掴めばいい。 少し細くなった肩を抱き寄せたまま、忠興は珠の髪を撫でる。 漸く、触れ合うことができた。 あれほど毎日寄り添っていた、当たり前の温もり。 その温もりが、漸く戻ってきた。 珠は静かに涙を零し続ける。 泣かない、と決めていたはずなのに。 余りにもの嬉しさに涙が止まらない。 ただ、ただ、彼の側に居たい。 願っていたのは、それだけ。 その夜、互いの熱が絡み合う中、珠は久しぶりに夜空を見上げた。 月は陰りなく輝き、星も煌めいている。 「星が……」 掠れた声で告げられると、忠興は珠の言葉に耳を傾けた。 「離れていた星が……共に輝いて居ます…」 離れていた星が隣り合い輝きを放っている。 それは紛れも無い、ふたりの星。 珠は思う。 いや、願う。 そのまま輝き続けていて――と。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

64人が本棚に入れています
本棚に追加