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珠が目を開けるとそこには夫が眠っている。
規則的な寝息をたて、強い意志を宿す瞳は閉じられている。
いつもの光景。
そう、常になってしまった。
珠の旧姓は明智。
今は細川だ。
夫である細川忠興に嫁いで半年。
ひとつ年上の彼は、優しい。
戦場の彼の気丈は知らないが、まだ十六だというのに、小隊を持つ立派な武将だ。
それなりに容姿は凛々しく、むさ苦しさもない。
爽やかな印象を与える笑みを零すと八重歯が覗く。
時に高慢で、時に可愛い。
そんな彼が生涯を共にする夫。
互いの父親は、織田に仕えている。
そう、今この国の大部分を手中に治める織田の家臣。
だから、顔見知った仲だった。
そんな珠と忠興の仲を取り持ったのは主君、織田信長だった。
主君は、珠が忠興の嫁に相応しいと半ば強引に、珠の父親である明智光秀に、嫁がせろ、と言った。
珠は美しいと皆から言われる程に可憐な少女。
両親の愛をその身に受け、外を知らないまま育った箱入り娘。
世間の認知はその程度。
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