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けれども、本当の彼女は、自らの命を惜しむことなどしない、武将ばりの気の強い娘。
そして、乱世に生きるということがどれほどの茨道かを既に悟っていた。
やがて、十五の珠は細川忠興の元へ嫁いだ。
勝手知らぬ邸に住み、ぎこちない生活が始まった。
頼る者も、自分を理解してくれる者もいない。
だからといって、しくしくと涙を流すほどでもない。
確かに自分の邸に戻りたいと感じるが、それほど住みにくいわけでもない。
けれども。
夫である、忠興との距離が一向に縮まることがない。
顔を合わすのは朝夕の食事の時のみ。
交わす言葉もない。
形ばかりの夫婦。
珠はそれに嫌気がさした。
生涯を共にすると誓ったのだから、それなりに何かあるべきなはず。
もちろん、何か、とはお互いを知るための会話や、夫婦としての夜の勤めなどなど。
少なくとも、珠は彼が嫌いではない。
どちらかと言えば、好きな方なのだ。
顔が。
そう、顔が。
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