64人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
「――珠姫、そなたは聡明な方だと聞く。何かあってのことではないのか?我らは夫婦、隠し事などするものではない」
まるで幼子を宥めるような優しい声で忠興は告げた。
その言葉に、珠はようやく閉ざしていた口を開く。
自分の想いを――。
「珠は…忠興様のことが知りとうございまする。妻として女として…お側に」
その真意を聞いた忠興は笑みを零し、珠の艶のある黒髪を撫でた。
珠のその心が嬉しい。
忠興もきっかけを探していた。
ふたりの距離を埋めるきっかけを――。
お互いが模索していたから、距離が開いてしまった。
若さ故に、何も知らない姫があのような暴挙にでてしまったことも、許せてしまえる。
「――珠姫…いや、珠」
改めて、名を呼ばれたことに珠は目を丸くして忠興を見つめた。
目に入る彼は優しく笑っている。
珠は安堵し同じように笑みを零す。
そのまま肩を抱かれるように珠は奥へと向かった。
.
最初のコメントを投稿しよう!