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といっても、そこまで力が強いわけではない。
単に、嵐が来ることや、不吉なことが起きるなどの前触れしか詠むことができない。
その人の未来をみる、などということは全くできやしない。
「ごめんなさい…」
珠は視線をそらし告げた。
忠興は珠の髪を撫で、頬に触れる。
彼女が告げたいのは、自分が普通の女ではなくてごめんなさい、ということ。
引き合わされるまま、嫁ぎ、妻となってしまったこと。
忠興は思う。
彼女は、自分が持つその力によって、自ら人と接することをしなかっのではないか、と。
けれども。
彼女は今、全てを打ち明けてくれた。
今まで、秘めていたことを。
その心を愛しいと想う。
その心を美しいと感じる。
「珠…私は幸せです。こんなにも貴女に想われていることに」
忠興の言葉にようやく、珠は笑みを零す。
そして、その日は指先を絡めあったまま眠りに就いた。
まだまだ、恋や愛とは程遠いけれども。
暗闇に離れていたふたつの星は、隣同士に。
共に輝きを放つ。
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