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…もうどれくらい掘っただろうか。
仕事をしていても、明け方の夢が頭から離れなかった俺は、営業先から直帰して物置に直行、今は黙々と掘っている。
Yシャツが、汗のせいで胸に張り付く。
ネクタイは泥だらけ。
「あーあ…。今朝おろしたばかりなのに…」
汗を拭いながらネクタイを見つめ、深い溜め息をつくと、俺は土盛りした場所へスコップを差し、辺りを見回す。
外灯が点灯し始まり、夕方と呼ぶには遅い時間になってしまっていた。
「朱鷺也(ときや)、夕飯冷めてしまうわ」
母さんの声で、この不毛な作業はひとまず終了を迎える事に。
部屋着に着替え食卓につくと、今日は俺の好きな物ばかりが、テーブルに並べられていた。
こういうのは俺に頼み事か、何か聞きたい事がある時が多い。大体察しはついているし、とりあえず、さしさわりないと思う事は話しても良いかな。
「驚いたわ。帰って来るなり、庭を掘り出すんですもの」
うん、実は…と言いかけて、口をつぐんだ。
待てよ?
今バラしたら、自分の取り分が減っちゃうじゃないか。
それに今朝の夢は俺だけが見たんだから、祖父さんは俺に遺産を託すって事なんだと思う。
ん~…。
やっぱり、適当に誤魔化しておこう。
「こ、子供の頃の宝物、何処に埋めたか気になって。最近、物忘れ激しいからさ、気付いた時にやらないと」
「物忘れって…貴方まだ25じゃない」
「今は、若いからって侮れないんだよ?若年性痴呆症だっけ?そんなのもあるらしいし。
まあ、物忘れの自覚があるうちは大丈夫みたいだけど」
「なら、朱鷺也は大丈夫ね」
空いた皿を手際良く片付けて、母さんは台所から出て行った。
俺も食事を済ませ、シャワーを浴びて自室へ戻り、ベッドに転がり込む。
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