拳の中

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もっともっともっと昔 俺が―――三谷原優が強くなろうと思った切っ掛けはもっと昔 残念だが、記憶は曖昧になる それでも、あの人―――赤い長髪の人は目に焼き付いて離れない 小学生の頃――― 度胸試しが流行った “心霊スポットに行ったり”  “橋の上から飛び降りたり” でも、俺はそんなんじゃ納得しなかった―――小学生の思考はバカだ 《度胸がある=強い奴》 なんて勝手に方程式をたてた 『おい!そこのヤンキー共!この俺様がぶっ倒してやる!!』 『はあ゛!?』 道端に居た煙草吸ってる兄ちゃんに喧嘩を挑んだ 結果は―― 言うまでもない 『うっ――うっ――っ――』 ボッコボッコに返り討ち  蹴られた腹が痛くて  殴られた頭が痛くて  腫れた目が視界を遮る 『なぁ?どっすよ?』 『埋めるか!?それとも沈めるとか!?』 『バカ、殺すんじゃねぇよ』 (俺は死ぬのか……?やべぇやべぇやべぇ!!誰か!誰か!誰か!助け――) 『おい……』 『はあ?何だ?ジジ―――ガッハッ――』 『口の聞き方にきぃつけろ。それに……ガキいたぶってんじゃねぇよぉぉお゛!!!』 『ぐふっ――』 『や、や、やべぇ!!このジジイ強え!?』 あっという間 腫れた目のせいで良く見えなかったけど――― 強くて、カッコイイ事は分かった あの気持ちはどんな漫画を見ても。どんな映画を見ても。どんなテレビを見ても 同じ気持ちには成れない うっすら赤い長い髪――― 俺の 《ヒーロー》《目標》 『泣くな坊主。男は泣くな。泣かない位強くなれ。んで、泣いてる奴を守ってやれ』 気を失う直前に聞いた声だった―――
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