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荒井 吉光はぼんやりと、目の前のクラス名簿をめくっていた。
ぱらぱらとページをめくる手が、ぴたりと止まる。
2年C組──。
彼は机に両肘をつき、もたれかかるようにそのページを凝視した。
ゆっくりと、指で生徒の名前をなぞっていく。
止まった指の先。
──穂崎 有紗の名前があった。
「何か信じらんないよなぁ……」
荒井はぽつりと呟いた。
彼は昨日の昼間の事を思い出して頭を抱えた。
彼は今年で三十四歳になるが、あんな光景を目にしたのは初めてだった。
教師になってもう十年。この学校に配属されたのは、もう四年も前の話だ。
その四年間の間に、色々な問題を目にして来たが、今回のは一番最悪と言って良かった。
「大丈夫ですか?荒井先生」
声がして、コトリと目の前に、湯気の立つ湯飲みが置かれた。
「ご自分の受け持つクラスの生徒が、こんな事になって……、本当に残念な事ですね」
ヤスダ シズカ
安田 静は、眉間にしわを寄せ、もの悲しい目でそう言った。
手には目の前の熱茶を運んだらしい、お盆を抱えていた。
「はぁ……。本当に……」
荒井は深いため息を付き、お茶をすすった。
「犯人……。早く捕まるといいですね……」
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