『曖』

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どうして貴方を愛してしまったのか。 私はただ、貴方を守りたい。 ただそれだけで泳ぎ続けたのです。 貴方は 本当の私を知りません。 貴方は 本当の私の声を知りません。 私は蒼く耀【かがや】く 翠色の尾を足に変え、 澄みきった声を失い、歌うことさえ許されなくなりました。 ただ貴方に逢いたい一心で、 ただ貴方に気付いてほしい一心で、 ・・・私は人間になりました。 けれども貴方は 私の心の声を聴くことが出来ずに、 他の人と結ばれてしまいました。 私は決して出ることのない声をからしながら 涙が枯れるまで泣き続けました。 私の心とは裏腹に、 海の流れは緩やかで 太陽の光は、 海の表面を優しく照らし続けていました。 私は太陽の日の出と一緒に 心の悲しみ 哀しみと一緒に 海の泡となって 消えました。 完全な人間になることさえ出来ず、 海の中に戻ることさえも出来ずに。 ただ残ったのは.... 貴方への愛だけでした。
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