Agape

2/10
前へ
/18ページ
次へ
夜中に目が醒めて、今自分はどんな夢を見ていたんだろうと思った。 夢を見ていたということは知っているのだけど、夢の内容は覚えていない。 暗闇の中で、朧気に浮かんだ天井を眺めた。 猫は死んだと皆が言った。 あの猫はどうなったのだろう。 気になった。 結局あの後、野次馬を尻目に帰宅したから、猫がどこへ行ってしまったか知らない。 友達にメールを送ろうとしたけれど、友達も一緒に帰ったから知っているはずがないと思い至り、早々に寝てしまった。 珍しく、いつもの妄想をする暇もなく寝入った。 今は何時だろう。 枕元の携帯を開くと、もう少しで夜明けだとわかった。 なのに部屋は残酷なほどに真っ暗で、太陽の気配など微塵も感じられない。 猫が可哀相だ。 自分も可哀相だ。 生きているということは、とても可哀相だ。 死んでいるというのなら、こんなに可哀相には思わない。 早く助けに行かなければならない。 可哀相から助け出さなければならない。 死んでいることにしなければならない。 自分は――。 静かにベッドから出た。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

116人が本棚に入れています
本棚に追加