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口腔内に広がる酸味に堪えていると、目の前に革靴が現れた。
見上げると、革靴の主がこちらを見下ろしていた。
「何があった」
私は口を塞いだまま、何度も首を振る。
「大丈夫か?」
手を差し出してきた。
ウィンナーのようなその指を私は払い除ける。
だけどやっぱり無表情のまま、相手は溜め息をついた。
「保健室に行きなさい。今ならまだ先生がいるから」
尚も太く分厚い手を眼前に差し出してきた。
その先端が、かすかに粉を吹いている。
白墨に染まったその指から、目が離せなくなった。
気持ち悪い。
臭い。
だけど――。
「田中先生!大変なんですよぉ」
友達が走ってきた。
「今行く」
チョークで汚れた手を引っ込めて、先生は私を通り越して去って行った。
私は今すぐにでも立ち上がって振り返り、先生を追いかけて足元にすがりつきたかった。
そして涙でも流しながら叫びたかった。
教えてください。
どうして死んでいるんですか。
死んでいるから可哀相なんですか。
生きているかもしれないじゃないですか。
教えてください。
あの猫は、
本当に死んでいるんですか――。
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