理想の行方

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「今、見つかった事は、神の啓示にございますれば、どうか、、どうか!この老いぼれめに、珠の力を得る為の研究を、、お命じ下さいませ! 力を、、力を手に、、お入れ下さいませ!」 「卿に問う」 王は、あくまで冷静であった。 「伝承によると、かのイシュハーティは世界を滅ぼしかけたと聞く。 卿は、、それ程の魔神を解き放つと申すか?」 王の声が、わずかに鋭さを含んだ。 「さにあらず!さにあらず!かの惨事は人の御するを得られんが為の事」 老練法士は、一度言葉を切り、大きく息を吸い込んだ。 「かの力、例えるならば 炎と同じでございます。 使い方さえ、使い方さえ誤らなれば!」 常ならば、決して自らを強く主張しない老練法士の言葉に若き王は、しばし瞑目し、ひじ掛けに何かを描くかの様に指先を滑らせた。 考えをまとまる際の癖である。 「卿に問う」 さして長くはないが充分に重い沈黙の後、王は問いを発した。 「なるほど、卿の考えは一理ある、、」 「なれば!」 王は右手を軽く上げ、老練法士の発言を制した。 「卿は先程『炎』と例えた。 しかしてそれは、誠に御しえる物か?」 「封じる事ができた物、必ずや御しえるかと!」 「その炎、暖をとるつもりが、家を焼き尽くすがごときとなっては、元も子もあるまい!」 「もしも、さような事になりましたら、、一命を賭して、食い止めてみせまする!」 「ならぬ!」 短くも、鋭い声色で、王は明確に否定の意を示した 。 「何故、何故でございますか!」 すがりつく様な視線。 その声色。 老練法士は、今にも泣き出すのではないかと思えた。 「卿は、我が国の柱石である! その大事な人材を、賭けのごとき事に使える程に人材は余っておらぬ!」 「勿体ない!勿体ないお言葉なれど!!」 平伏せんばかりの勢いの老練法士を若き王は、軽く片手を上げて制した。 「卿が、我が国を誰よりも愛しておる事。 これ、疑いの無い事である」 若き王の言葉は、あくまで穏やかである。 「強大な力を得れば、余とて、それを振るう欲望に勝てぬやも知れぬ」 若き王は、静かに玉座から立ち上がる。 「結果、民草を苦しめる事ともなれば、、累代の王の、、」 老練法士へと歩を進め。 「そして、、卿の永年の労苦を無としてしまう」 片膝をつくと、そっと老練法士の手をとり、両手で包みこんだ。 「卿の考え、わかるつもりだ。 しかし、、堪えてはくれぬか?」
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