京丸へ

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娘は宿泊施設に近付き、手で窓を拭き中を覗き込むと俺の隣にやってきた。 「布団が隅に積んであるね、お父さん少し休みながらもう少し京丸ボタンの話しを聞かせてよ」 「ああ、一旦車に戻ってから中で話すよ」 2人で広場の隅に止めて置いた車に戻る。 「色んな伝説が残ってるんでしょ、京丸ボタンって」 「ああ、さっき話したのがオーソドックスな話しらしいけど本当に色々な話しが伝わっているんだ…… 京丸と言う村の発祥自体がまず謎だって言われているんだ。 平家の隠れ里って説もあれば、反対に源氏の隠れ里って説もあった。 それと、この話しに出て来る青年だけど、彼にしても色んな説があってね、花火職人だったり、役人だったり、ただの行き倒れだったりする。 正し彼は色々な説がある中で、1つ共通するのは、よそ者だって事なんだよ。 それともう1つ、 彼と彼女は死んでしまう…… 帰ったら色々調べてごらん」 「そうだね、面白そう」 俺は車のエンジンをかけて、 「そろそろ行くか?」 と娘に言った。 「ここから先は未舗装だって言ってたな……」 ここに来る途中、鈴本商店と言う雑貨屋で、お婆さんに道を尋ねた時にそう聞いていた。 「でも凄い偶然だったね、道を聞いたお婆ちゃんが、実家が京丸にあったて言うんだもん、あたしビックリしちゃった。」 そうなのだ、彼女は3人姉妹の末っ子として、春野町で生まれたと言っていた。しかし、彼女の姉は京丸で生まれ、暫く京丸で生活していたと言うのだ。 彼女に京丸の伝説について聞いてみたが、彼女は余り知らないと言う事であった。 娘は興奮気味に言う。 「しかもお姉さんが京丸牡丹を見って言ったもんね…… 凄いな~」 娘と若者の命日に咲いた牡丹の花は、今では60年に1度しか見られないと言われている 宿泊施設から2~3分車を走らせると、舗装された道から、少々路肩の不安な砂利道になった。 「残念だったな、お姉さんが亡くなってたのは…… 帰りにもう1度鈴本商店に寄って行こうか?」 「そうだね」 娘は嬉しそうに頷いた。
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