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「ああ。そうだよ。気が変わったかい?」 「ううん。レイを傷付けた事は許せない。どんな状態だったのか思い出すだけで胸が痛む。俺がしっかり奴を捕まえていれば良かったんだろうから、俺は俺も許せないでいる」 「愛妻家なのは、何処のパパに似たんだか」 「アメリカとイギリスのパパ」 「おっ。即答か」 「うん。まだ届いていないかなぁ?」 「おやおや。そらそら。愛妻の待っているサンルームに戻るぞ」 「はーい」  宏一は、腹を括った。  今の自分にやれるとは思わないが、企業人としても尊敬している英米の二人のパパの期待に応えたいと思ったのだ。  その結果、大胆素敵なウルトラスーパーミラクル社長が出来上がった。  当初の予定通りリチャード家に二人して養子に入り、先ずはカワムラを潰して、引き継いだサムソンズ&コーンズの経営規模を、二年で二倍の事業拡大に成功していた。  会長として、英米のパパ達は企業に残ってくれたが、事業に対しては口を挟まず、溺愛している息子夫々に任せっ切りだ。  宏一と怜の住まいは、英米のパパとママが暮らしていた本宅で、英米のパパ達は一戦を退き、実際は悠々自適な隠居生活を過ごしていた。それぞれ、別荘に生活の場を移し、たまに、息子達に会いに来ている。  それから十年。  宏一四十歳。  怜三十歳。  怜はニューヨーク州立大学を卒業し、宏一の第一秘書としてサムソンズ&コーンズに入社したが、時として離れ離れになる事があると判明したので、僅か半年で辞め、専業主夫として家で宏一の帰りを待つ事にした。そして、宏一の代理で英米のパパ達の所に遊びに行っている。  行けば歓待してくれるので、どうしても尻が長くなり、最低でも一週間。宏一の代理なのだが、怜は両方のパパとママに気に入られているので、早くは帰して貰えないのだ。  悲惨だったのは、実の息子に三行半を二度も突き付けられた宏一の実の父・泰明で、会社は潰され、家屋敷・別荘・車等、全部売って社員達への退職金を工面し、過労で他界した。その知らせは宏一の耳にも届いたが、日本には帰らなかった。  宏一の怒りは、十年経っても消える事はなかったのだ。けれど、新しい家族との仲は良く、夫々仲も良かった。それは、一生続いた。       E N D
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